あいさつ
挨拶
岐阜大学大学院医学系研究科小児病態学の深尾敏幸です.1985年に三重大学医学部を卒業し,その後岐阜大学の小児科に入局しました.翌年には岐阜大学大学院医学研究科にはいり,折居忠夫教授の指導を受け,また信州大学の生化学教室の橋本隆教授に分子病態解析の基礎をお教えいただき,ケトン体代謝異常症の1つであるβ-ケトチオラーゼ欠損症の原因遺伝子のcDNAクローニングを行い,それが1989年に学位論文となりました.
その後28年にわたりケトン体代謝異常症の臨床および分子病態解析をおこなってきました.平成21年〜平成23年にわたり厚生労働省の難治性疾患克服事業にて先天性ケトン体代謝異常症の研究班の班長をさせていただき,このホームページを立ち上げることができました.大きく研究を進めることができ,厚生労働省に感謝いたします.また岐阜大学近藤直実名誉教授,島根大学山口清次名誉教授のご指導,多くの患者さんをご紹介いただいた日本の先生方,海外の共同研究者の方の協力があって研究を進めることができました.これまでの研究成果を広く臨床の場に還元し,1名でも多くの患者さんが,大きな障害をもたず成長発達していただけることを切に望んでおります.
ケトン体代謝異常症においては,診断が確定することで,非常に安価なブドウ糖をうまく用いることで,重篤な低血糖や,アシドーシスを予防することが可能です.しかし重篤な発作を起こせば,その後遺症としての精神発達遅滞,また発作時死亡を起こすことも有ります.広く疾患を一般小児科医に知っていただくこと,そして診断への専門家としてのサポートが重要と考えております.
またケトン体代謝異常症の分子病態解析を通して,遺伝子上のたった1塩基の変化(変異)がどのように酵素蛋白の不安定化や活性喪失につながるのかがわかってきました.そのような分子病態にも今後も取り組んでいきます.
またケトン体には多くの臨床的に重要な作用があることもわかってきました.難治性てんかんに対するケトン食療法の効果などはその例です.またGLUT1欠損症,グルタル酸血症2型,ピルビン酸脱水素酵素欠損症などの治療にもケトン食,ケトン体が有効であることが示されてきています.糖尿病,肥満,神経変性疾患に対するケトン食療法も注目されています.ケトン体の代謝が破綻した状態を解析するのみでなく,このようなケトン体の機能にも目を向けて研究を続けていきたいと考えております.
平成29年10月 岐阜大学大学院医学系研究科小児病態学 深尾敏幸